あの「Born In The U.S.A」で世界の頂点に立つ直前、彼は、成功の重圧と自らの過去に押し潰されそうになりながら、わずか4トラックの録音機の前で、たった一人、静かに歌いはじめる。ヒットチャートも栄光も求めず、ただ心の奥底から掘り出した“本当の声”を、孤独と痛み、そして創造の原点とともに刻み込んだ――。
 映画「孤独のハイウェイ」(Deliver Me From Nowhere)を観て、このアルバムの全曲和訳の意欲が湧きました…!

「孤独のハイウェイ」~Deliver Me From Nowhere を観た皆さま
(2025/11/20)

12月のアルバム全曲和訳はブルース・スプリングスティーンの「Nebraska(ネブラスカ)」にします。


◆アルバム「ネブラスカ」については、映画を観た人には解説は不要でしょう。

 ブルースが自分自身を見つめ、自宅で一人、4トラックで録音したアコースティック・アルバムになります。 
 そのオープニング曲がアルバムタイトルにもなった「ネブラスカ」ですが、この曲の歌詞は、

19歳の殺人犯チャールズ・スタークウェザーの物語です。彼は1957年から1958年にかけて、14歳の恋人カリル・アン・フーゲートとネブラスカ州とワイオミング州を旅行中に10人を殺害しました。逮捕後、スタークウェザーは電気椅子による死刑判決を受けます。歌詞の中で、スタークウェザーは罪を悔い改めず、自分の行為を世界の「卑劣さ」のせいにします。
 スプリングスティーンは、このカップルにインスピレーションを得た映画『バッドランド』を観た後、ニネット・ビーバーの著書『カリル』(1974年)を読んだ後にこの曲を作曲しました。 この曲は一人称視点で歌われており、スプリングスティーンは2005年に「誰もが有罪判決を受ける気持ちを知っている」と語っています。

ブルースは当初、この曲のタイトルをそのまま「スタークウェザー」にしようと考えていたようです。

僕はこの曲の主人公に想いを重ねるつもりはありません。
この曲を書いて、歌って、タイトルを「ネブラスカ」とつけたブルース。
そして、この曲を始めとする一連の曲たちについて、ありのままのストレートなサウンドでアルバムを作ることにこだわった彼の想いについては寄り添いたい…と思いました。


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(Bruce Springsteen)

Released in 1982
From the Album“Nebraska” 

*原詞は太字


I saw her standing on her front lawn
Just twirling her baton
Me and her went for a ride, sir
And ten innocent people died

彼女が家の前の芝生に立っているのが見えた
バトンをくるくる回していたんだ
俺は彼女はドライブに出かけた
そして 10人の罪のない人々が死んだ

From the town of Lincoln, Nebraska
With a sawed off .410 on my lap
Through to the badlands of Wyoming
I killed everything in my path

ネブラスカ州リンカーンの町から
膝の上に銃身を短くした410口径の銃を載せ
ワイオミング州の荒野まで
行く手を阻むものすべてを殺した

I can't say that I'm sorry
For the things that we done
At least for a little while, sir
Me and her we had us some fun

俺たちがやったことについて
後悔なんか口にしない
少なくとも しばらくの間は
俺と彼女は楽しんだんだから


Now the jury brought in a guilty verdict
And the judge he sentenced me to death
Midnight in a prison storeroom
With leather straps across my chest

陪審員は有罪評決を下した
そして裁判官は俺に死刑を宣告した
真夜中の刑務所の「倉庫部屋」
俺は胸に革のストラップを巻かれてる

Sheriff, when the man pulls that switch, sir
And snaps my poor head back
You make sure my pretty baby
Is sitting right there on my lap

保安官さんよ   死刑執行人がスイッチを引いて
俺の哀れな頭が後ろに反り返ったとき
可愛いベイビーが
膝の上に座ってるようにしてくれよな


They declared me unfit to live
Said into that great void my soul'd be hurled
They wanted to know why I did what I did
Well sir I guess
there's just a meanness in this world


ヤツらは俺が生きるに値しないと宣言した
俺の魂を
あの何もない場所に投げ込んでやるってさ
俺がなぜしたのか 何をしたのか知りたがってたが
まあ この世には
卑劣なものってのがあるんだろうな


(Words and Idioms)
sawed-off=短く切った:物を切り詰めた状態
(ショットガンの銃身が短く切られた場合に使われる)
guilty verdict 〔陪審員団などによる〕有罪(の)評決 
great void=大きな空洞、大きな空白。物理的または空間的に何もない状態hurl= (…を)強く投げつける
meanness =意地悪さ、卑劣さ、残酷さ

日本語訳 by 音時



◆この曲のSongfactsページより;

1996年のNMEとのインタビューで、スプリングスティーンは不快な人物を描くことについてこう語っている。「経験を再現しようとしているのではなく、感情や行動に込められたものを再現しようとしているんだ。それらは誰もが理解していることであり、誰もが心の中に持っているものだ。行動は症状であり、実際に起こったことですが、その行動を引き起こした原因は、誰もが知っている。あなたも俺も知っている。それはすべての人間の中に存在し、それこそが掘り出すべきものであり、潜るべき井戸なのんだ。そうすれば、登場人物たちの核心的で根本的な何かが見えてくる…。」


マーティン・シーンとシシー・スペイセク主演の1973年映画『バッドランド』は、スタークウェザーの物語にインスピレーションを得たものとのこと。



1959年、サウスダコタ州の小さな町。15才のホリー(シシー・スペイセク)は、学校ではあまり目立たないが、バトントワリングが得意な女の子。ある日、ゴミ収集作業員の青年キット(マーティン・シーン)と出会い、恋に落ちるが、交際を許さないホリーの父(ウォーレン・オーツ)をキットが射殺した日から、ふたりの逃避行が始まった。ある時はツリーハウスで気ままに暮らし、またある時は大邸宅に押し入り、魔法の杖のように銃を振るっては次々と人を殺していくキットの姿を、ホリーはただ見つめていた―。

 “Nebraska”の歌詞冒頭に出てくる二人の出会う場面...ホリー(映画での女子の名前)がバトンをくるくると回してますね…。

 ブルースは、当時、劇場のロビーでこの映画のポスターを見ましたがその時は映画は観なかったそうです。でも「Darkness On The Edge Of Town」のオープニングトラックでブルースが“Badlands”というタイトルの曲を歌ってるのは皆さんもご承知の通りでしょう。何の影響もなかった…とは言えないでしょうね。
 でブルースは映画「Badlands」は1980年に観て、また、スタークウェザーの恋人であり共犯者でもあったカリル・フーゲイトの伝記も読んだそうです。



◆ブルースはEストリート・バンドと演奏・レコーディングもしましたが、結局そのバージョンは使われず、お蔵入りとなって、2025年10月の『ネブラスカ ’82: エクスパンデッド・エディション』の発売を待つこととなります。

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◆こちらもSongfactsからの情報;


1990年のロサンゼルスでのコンサートでこの曲を紹介したスプリングスティーンはこう説明した。「これは断絶と孤独についての物語だ。俺はいつも、本当に孤独を感じながら、何か繋がりや所属できるコミュニティを見つけたいという気持ちの間で葛藤してきた。だから最初にギターを始めたんだと思う。俺は長い時間を…孤独を強く感じる時期があった。この曲は、自分のそういう側面が解き放たれた時に何が起こるかを歌っているのだと思う。周りの繋がりも感じられず、法律や道徳が何を意味するのか分からなくなる。そして…自分が消えてしまうんんだ」


◆アルバム「ネブラスカ」はブルース・スプリングスティーンのアルバムの中で、表紙にも裏表紙にも彼の写真が載っていない唯一の作品となります。

 「自分がそこに載るべきじゃないって分かっていたんだ」と、ウォーレン・ゼインズの『デリバー・ミー・フロム・ノーウェア:ザ・メイキング・オブ・ブルース・スプリングスティーンズ・ネブラスカ』の中で彼は語っています。

 「俺が描いていた世界、それがこのアルバムジャケット(the cover )に必要なことだったんだ。」