この9分以上ある曲“Jungleland”でアルバム「Born To Run」が締めくくられます。

この記事ではその和訳を試みて、僕なりの解説(感想)を綴るわけですが、
まず、この曲は、和訳をしなくたって、アルバム全体を貫くものが最後に大団円を迎える、ことがわかりますよ。吠えるブルース、その声色は決して明るくなくどちらかというと悲哀に満ちていますが、それでも決して…負けているわけではない。

 “Jungleland”…厳しい暮らしや社会というイメージです。でもそんな“Jungleland”でも負けない気持ちを持って生き抜いていくんだ…というメッセージが伝わってきます。この曲は僕に、気持ちを振り絞って前向きに生きていこうと思わせてくれます。

アルバム「Born To Run」。今回トータルで味わいました。
やっぱりすごいアルバムです…。


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(Bruce Springsteen)

Released in 1975
From the Album“Born To Run”

*原紙は太字

The rangers had a homecoming
in Harlem late last night
And the Magic Rat drove his sleek machine
over the Jersey state line

Barefoot girl sitting on the hood of a Dodge
Drinking warm beer in the soft summer rain
The Rat pulls into town rolls up his pants
Together they take a stab at romance
and disappear down Flamingo Lane

レンジャー達はハーレムに帰郷  昨晩遅く
マジック・ラットは  ヤツのツヤのある車で
ニュージャージー州の境界線を越えた

裸足の少女がダッジのボンネットに座り
柔らかな夏の雨の中 温かいビールを飲んでいる
ラットは町に入り ズボンの裾をまくり上げる
そして 二人はロマンスを試みようと
フラミンゴ通り へと姿を消していく

Well the Maximum Lawman run down
Flamingo chasing the Rat and the barefoot girl
And the kids round here look just like shadows
always quiet, holding hands
From the churches to the jails
tonight all is silence in the world
As we take our stand down in Jungleland

さて ラットと裸足の少女を追いかけて
お偉い保安官様が フラミンゴ通りを駆け下りる
この辺りのキッズどもは影のように見える
いつも静かに手をつないでる
教会から刑務所まで 今夜は
世界中がすべて静寂に包まれている
俺たちは俺たちであり続ける  ジャングルランドで


The midnight gang’s assembled
and picked a rendezvous for the night
They’ll meet ‘neath that giant Exxon sign
that brings this fair city light

Man there’s an opera out on the Turnpike
There’s a ballet being fought out in the alley
Until the local cops,
Cherry Tops, rips this holy night


真夜中のギャングが集まって
夜の待ち合わせ場所を選んだ
会うのはでっかいエクソンの看板の下さ
この公明正大な街に光をもたらしてる

なあ  高速の料金所ではオペラが上演
路地裏じゃ バレエが繰り広げられてるぜ
地元のポリ公が最後の最後に
この聖なる夜を引き裂いちまうまで

The street’s alive as secret debts are paid
Contacts made, they vanished unseen
Kids flash guitars just like switch-blades
hustling for the record machine

The hungry and the hunted
explode into rock’n’roll bands
That face off against each other out in the street
down in Jungleland

秘密の借金が返済され 通りは活気づく
連絡が取れたが ヤツらは人知れず消える
キッズたちはジュークボックスに向かって
飛び出しナイフのようにギターをひらめかせる

飢えた者と 追われた者が爆発するように
バンドを組んで ロックン・ロールするのさ
ストリートで互いに向かい合る
ジャングルランドの通りで

In the parking lot the visionaries dress in the latest rage
Inside the backstreet girls are dancing
to the records that the D.J. plays

Lonely-hearted lovers struggle in dark corners
Desperate as the night moves on,
just a look and a whisper, and they’re gone

駐車場じゃ沢山の空想家が最新の流行に身を包む
裏通りでは 女の子たちが
DJがかけるレコードに合わせて踊ってる

孤独な恋人たちは暗い隅っこでいちゃつくが
夜が更けるにつれ 絶望するんだ
ただ見つめてささやくだけで ヤツらは消えていく

***

Beneath the city two hearts beat
Soul engines running through a night
so tender in a bedroom locked
In whispers of soft refusal
and then surrender

in the tunnels uptown
The Rat’s own dream guns him down
as shots echo down them hallways in the night
No one watches when the ambulance pulls away
Or as the girl shuts out the bedroom light

街の下で二つの心臓が鼓動する
魂のエンジンは夜を駆け抜ける
鍵のかかった寝室でとても優しい夜を駆け抜け
ささやき声で そっと嫌がり
そして身をゆだねる…

アップタウンのトンネルで
ラット自身の夢が 銃で崩れ落ちる
銃声が夜の廊下に響き渡る
誰も見ていない
救急車が走り去るのも
少女が寝室の明かりを消すのも


Outside the street’s on fire in a real death waltz
Between flesh and what’s fantasy
and the poets down here don’t write nothing at all,
they just stand back and let it all be

And in the quick of the night
they reach for their moment
And try to make an honest stand
but they wind up wounded,
not even dead
Tonight in Jungleland

死のワルツが奏でられ 外の通りは燃えている
肉体とファンタジーの狭間で
ここにいる詩人たちは何も書かない
ただ後ろに下がって あるがままに受け止める

夜の闇の中 彼らはその瞬間を求め
純粋な心で 抵抗をするのさ
だが 死んでさえはないけれど
結局 深く傷つくんだ
今夜 ジャングルランドで…

(Words and Idioms)
Ranger〈米〉《軍事》レンジャー部隊員◆奇襲攻撃を行う特殊任務歩兵部隊員。
〈米〉〔警察の〕レンジャー部隊員◆アリゾナ州などの国境取締部隊員。
sleek=形. 〔毛髪}などが〕つやつやした、つやのある、光沢のある
Dodge=ダッジはアメリカの自動車ブランド。1914年に設立されたダッジ・ブラザーズ自動車が前身。1928年にクライスラーに買収され、クライスラーの一部門となった。
take a stab at ~を試みる、~に挑戦してみる
take a stand=〔~に対する〕態度を明確にする、〔~に対して〕声を上げる〔意見をはっきり言う〕」Exxon=エクソン・モービル◇アメリカの石油会社
turnpike 【名】 〈米〉〔有料の〕高速道路◇可算◇【同】pike 〈米〉〔高速道路の〕料金所
cf. Cherry on top=良い物(者)の(1)最も優れている部分(2)最終工程
visionary ; 明確なビジョンを持った人、空想家

日本語訳 by 音時

Bornimages


◆ブルースはこの曲について次のようにコメントしているとのこと。
 (2016年に出版された自伝『Born to Run』より)

 ここではバイオリンの前奏曲がピアノに移り、裏切り者のマジック・ラットと裸足の少女の哀愁漂う物語が展開される。彼はこう書いている。
 そこからは夜通し、街と『ジャングルランド』の精神的な戦場が続き、バンドは次々と音楽の動きをこなしていく。そして、クラレンスの最高の瞬間が録音される。あのソロ。最後の音楽の引き潮、そして…「ここにいる詩人たちは何も書かない。ただ後ろに下がって、すべてをあるがままにしておく…」と、俺のボーカルのアウトロの背中をナイフで刺したような悲鳴が、最後に聞こえる音で、血みどろのオペラの栄光の中ですべてを終わらせる。レコードの終わりには、「サンダー・ロード」の恋人たちは、苦労して勝ち取った楽観主義を、暗い街の路上で厳しく試されている。


この曲は物語の「章」もしくは「幕」の変更を間奏で示していますよね。
特にクラレンスのソロ、そしてブルースの歌唱で…。
ラットと裸足の少女との冒険とロマンス、そしてその夢が終わる場面も…。

この曲の物語で、真夜中のトラブルに銃が使われたのは間違いありませんが、ラットは命を落としたのでしょうか、それとも救急車で運ばれたけど命は取り留めたのでしょうか…。

いずれにせよ、この曲のエンディングでは、若い夢が終わった物語は示しているように思います。
ただやっぱり100%悲観してはいない。ブルースの咆哮は、夢が終わったから終わりではなく、現実を受入れながら“Jungleland”を歯を食いしばって生きていく決意に聞こえるんだよな。アルバム「Born To Run」はこれで大団円を迎えます。