ザ・バーズやクロスビー・スティルス&ナッシュ…長いキャリアのなかでフォーク・ロックシーンの中心だったデヴィッド・クロスビーが天国に旅立ちました。(2023年1月19日 享年81歳)
安らかにお眠りください。
デヴィッド・クロスビーが81歳で死去、グラハム・ナッシュ/ブライアン・ウィルソンらが追悼
(Billboard Japan)
といっても…僕はデヴィッド・クロスビーはほとんど聴けていません(^_^;)。ただとても覚えていたのはこの曲“Almost Cut My Hair”です。そんなわけで本日はこの曲の和訳で追悼…。

◆1975〜1976年頃、洋楽を聴き始めた僕は、リアルタイムの流行曲と同時に、70年代前半や60年代の名盤と言われたアルバムを小遣いの許す限り(^_^;)さかのぼってレコードで購入したり、You&愛さんなどでレンタルで借りてテープで録音して聴いたりしていました。
C.S.N&Yの1970年リリースの「Déjà Vu”」もその1枚。こちらはレンタルでしたね(←やはり買わんのかい)。
A面トップのオープニングは、フォークギターと全員のコーラスで始まる“Carry On”、2曲目は聴きやすい“Teach Your Children”(グラハム・ナッシュ)、そして3曲目、なんだこの気合いの入った曲は…!と作者を確認すると“デヴィッド・クロスビー”。
C.S.N&Yのトップに頭文字のある「C」。“クロスビー”は渋い曲を歌う人なのだな、とこの曲1曲を聴いただけで知った気になってしまいました。(やわ〜な僕は、気に入ったのは“Teach Your Children”や“Our House”…ほんわか“N”曲だったなあ…)

◆この曲の邦題は「カット・マイ・ヘア」ですが、これは誤訳と言えますよね。だって“Almost”がついてるんだから結局“髪の毛は切らなかった”。“もう少しで切るところだった”わけですから。
この「髪の毛を切る」という行為ですが…僕はバンバンの「いちご白書をもう一度」の“就職が決まって髪を切ってきたとき もう若くないさときみに言い訳したね”という歌詞(ユーミン作)で、そういうことなんだな…と解釈しました。
そんなに違っていなかったようです…。
Songwriter(s) David Crosby
Released in 1970
From the Album “Déjà Vu”
*原詞の引用は太字
Almost cut my hair
It happened just the other day
It was gettin' kinda long
I could-a said, it was in my way
But I didn't and I wonder why
I feel like letting my freak flag fly
Yes I feel like I owe it to someone
もう少しで髪を切るところだった
ある日の出来事だった
少しばかり長くなってきたし
そいつは俺のやり方だって言えたんだ
だけど 俺はしなかった 何でなんだろう
俺はまわりと違うんだって言いたい気持ちだった
(変わったヤツという旗を掲げたい気持ち)
そうさ 感じたんだ
誰かに負い目を作っちまったみたいだ
Must be because I had the flu for Christmas
And I'm not feelin' up to par
It increases my paranoia
Like lookin' at my mirror and seein' a police car
But I'm not givin' in an inch to fear
'Cause I promised myself this year
I feel like I owe it to someone
クリスマスにインフルエンザに
かかっちまったからに違いない
体調がいつもと違っておかしいのさ
妄想がどんどん頭をもたげてくる
鏡を見ると 警察の車を見ているみたいになる
だけど これっぽっちも恐れたりはしない
だって 俺は今年自分に誓ったんだから
感じたんだ 負い目を感じた自分がいる
When I finally get myself together
I'm gonna get down in that sunny southern weather
And I find a place inside to laugh
Separate the wheat from the chaff
I feel like I owe it to someone
いずれ 気持ちが落ち着いたら
南に行って晴れの日に腰を落ち着けよう
場所を見つけるのさ 笑顔のなかに
もみ草から小麦を取るんだ
誰かに負い目を感じた気持ちのままで…
(Words and Idioms)
flu=インフルエンザ、流感
up to par ... (1) 標準に達して. (2) 体調が常態に達して
get oneself together =気持ちを落ち着かせる
chaff 《植物》〔穀物の〕もみ殻
日本語訳 by 音時
この曲を書いた頃のデヴィッド・クロスビーは長年の恋人を交通事故で亡くし、悲しみに暮れていた頃のようですね。(翌年1971年発売のデヴィッドのソロアルバム「If I Could Only Remember My Name」も彼女に捧げたアルバムです)
そんなエピソードを耳にすると、この曲を歌うデヴィッドの声には悲しみや怒りがあるように聞こえますね。「髪を切る」=「屈服」とすると、もう少しで自分が崩れ落ちそうになってしまうことをかろうじてこらえた、という歌なんだろうなあと思いました。
◆“Freak Flag”をはためかせる(Fly)の意味は…。
やはりヒッピー文化など、周りと違うことをして自分がここにいるというアピール、が"フリーク "ということなんだろうな。でもこの言葉を最初に使ったのはデヴィッドではなく、ジミ・ヘンドリックスらしいですね。ジミの「If 6 Was 9」(邦題“もしも もしも)”1969年アルバム「Axis: Bold As Love」に "But I'm gonna wave my freak flag high, high. "という歌詞があります。
◆「誰かに負い目を作った気がする」…
これは正直よくわかりませんでした。でも髪を切らず長いままでしておくこと=負い目を背負った者の努め、と考えると、その相手は「(嫌々ながらも)髪を切った者」ですよね。「ベトナム戦争に徴兵された者たち」「若さを捨てて就職、家庭に収まった者たち」…ということになるのでしょうか。
◆クリスマスにインフルエンザ…
実際はインフルエンザではなく、麻薬中毒になったことではないか…という話。ちょうどこの頃、デヴィッドは、麻薬所持で逮捕された様子で、この曲はその直後に書かれたものであるらしい…(^_^;)。
◆Separate the wheat from the chaff
「麦ともみ殻を分ける」…麦から粒を取り出し、もみ殻(カス)を処分するということ…デヴィッドはこれからの人生のなかで「悪いものを取り除き、良いものだけを残す」事を考えてる=悔いなく生きることで追い目を果たしていく…と考えていたのでしょうか。
◆アルバム「Dejavu」のスタジオバージョンで最初にゴニョゴニョ話声が入っていますが、これは“I will now proceed to entangle the entire area“(これから全体を絡めるように進めよう…)とレコーディングする際の注意を話してるのではないか、ということです。
【この記事を書くのに参考にしたページ】
Almost Cut My Hair Wikipedia
Almost Cut My Hair Songfacts
◆“Almost…”と歌い始めるだけで沸く観衆…。デヴィッド・クロスビー、天国に行っても髪を切らずにいてください…R.I.P…。
コメント
コメント一覧 (6)
音時
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これなんかは、なんだかジミ・ヘンっぽくてカッコよかったりするのですが、そもそも、そのジミ・ヘンドリックス自体が、洋楽の中級編的な位置づけですから。
ちなみに、以前の職場にいた知人は、このアルバム『デジャ・ビュ』を聞いて、途中で泣きそうになったそうです。
なるほど、言われてみれば、Side 2のタイトル・チューンから『カントリー・ガール』へ続く展開は、けっこう聞く人の気分を沈めてしまいそうです。
おまけに『ヘルプレス』なんて曲まで入っているんですから。
音時
が
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髪の毛を伸ばす、あるいは切る、ということがどんな意味があったんだろうか、感じる人は感じることができる歌でもあると思います。
音時
が
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音時さんの解説を熟読しました。毎度のことですが、深いなあ。
「髪を切る」=「屈服」とすると。「髪を切った者」とは…。「ベトナム戦争に徴兵された者」「就職して家庭に収まった者」ということになりますね。
ミュージシャンとしてのデヴィットは、恋人の事故死などによって音楽活動をやめようと思ったけど、それを何とか耐えてきたのかも知れません。
『デジャ・ヴ』(Déjà Vu)は、ビルボードで1位を記録したアルバムです。そのアルバムの中で、この曲はどうも好きになれませんでした。でも、当時のデヴィットの立場や伝えたいメッセージを加味すると、この曲の凄みを感じざるを得ません。
何十回と聴いている曲ですが、だんだん好きになってきました。今更ながら…。
音時
が
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音時
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たしかに、『デジャ・ヴ』でのクロスビーは、風変わりで難解な曲を提供していました。
でも、『4ウェイ・ストリート』の「リー・ショア」とか、『デイ・ライト・アゲイン』の「デルタ」「マイト・アズ・ウエル・ハブ・ア・グッド・タイム」とかは、心に響く曲です。個人的には、「デジャ・ヴ」も好きな曲です。
記憶が甚だ曖昧なのですが…。 CSNが来日したときに、ライブに行きました。あの時はクロスビーもいました。(病気は大丈夫だったのでしょうか) クロスビーは職人という感じで黙々と演奏をし、グレアム・ナッシュが盛り上げ役だったのを覚えています。(ボクも、ナッシュの曲は聞きやすくて好きです)
デビット・クロスビーをこの眼で見られて、ボクは幸せ者だと思います。今までありがとう。お疲れ様でした。
音時
が
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