ジョン・メレンキャンプの8枚目のアルバム“Scarecrow”。収録曲11曲のうち、ここからは5曲のトップ40ヒットが出ています。

(1985)
Lonely Ol'Night #6
Small Town #6
(1986 )
R.O.C.K in The U.S.A#2 
Rain On The Scarecrow #21
Rumblesheat #28


◆Wikipediaからの情報ですが、ジョン・メレンキャンプは1985年末にクリーム誌に次のようなことを言っていたようです。

「"Stand for Something(何か信念を持て) "」という曲を書いたんだ。でも、自分自身の真実以外に、何を信念として持つかは言っていない。曲は面白い曲のつもりだったし、みんなにそれが伝わればいいんだけどね。それがLP全体の鍵だと思うんだ。各人が自分自身の真実と向き合って、もう少し自分を好きになろうと提案する、自分がどういう人間なのかを知り、世の中に引きずられないようにする。人は自分自身を尊重し、信じるべきなんだ。


RainScarecrow


はい、アルバム全体を通じたメッセージはこういうことなんだろうと思います。そして“Scarecrow”と名付けられたこのアルバム。タイトルの意味自体は、

 scare ・・・ 「怖がらせる、おどかす」を意味する動詞
 crow ・・・ 「カラス」を意味する名詞

で、「かかし(案山子)」のことですね。でも、そこから転じた意味としては“こけおどし“、そしてさらに、“みすぼらしい人、痩せっぽち、痩せ衰えた人“という意味などもあるようです。

A面トップを飾るこの曲“Rain on The Scarecrow”…当然、アルバム全体を理解するうえではキーになる曲なのでしょう。ジョンはこの曲を、"Hurts So Good "などの多くの曲で一緒に仕事をした友人のジョージ・グリーンと書いています。

 さて、雨に打たれてるスケアクロウ…どんな曲なのでしょう…?


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(Mellencamp, George M. Green)

Released in 1986
US Billboard Hot100#21 
From the Album “Scarecrow”


*原詞の引用は太字

Scarecrow on a wooden cross 
blackbird in the barn
Four hundred empty acres 
that used to be my farm

木製の十字架にかかる カカシ
納屋のなかには黒い鳥
400エーカーの空き地は
以前は俺の家の土地だった

I grew up like my daddy did 
my grandpa cleared this land
When I was five I walked the fence
while grandpa held my hand

俺は爺ちゃんが開拓したこの土地で
父親と同じように育ったのさ
5歳のとき俺は柵を歩いたんだ
爺ちゃんは俺の手を握っていてくれた

Rain on the scarecrow 
blood on the plow
This land fed a nation 
this land made me proud
And son I'm just sorry 
theres no legacy for you now

Rain on the scarecrow 
blood on the plow
Rain on the scarecrow 
blood on the plow

木の十字架 に雨が降り
農具には血が染み込んでいる
この土地が国を養い 
この土地を俺は誇らしく思ってた
だが息子よ すまない
お前に残してやれるものはもう何もない

雨が降り注ぐ木の十字架に
血が染み込んでる 鍬や鋤に
雨のなかに佇む痩せっぽちの俺たち
農具には血が染み込んだまま

The crops we grew last summer 
weren't enough to pay the loans
Couldn't buy the seed to plant 
this spring and the farmers bank foreclosed

去年の夏の収穫高は
借金を返すには十分じゃなかった
種を蒔くにも 買えやしないから
この春に銀行は差し押さえしたんだ

Called my old friend schepman 
up to auction off the land
He said john its just my job
and I hope you understand

古い友人の“schepman”に電話したよ
土地を競売にかけたヤツさ
ヤツは言ったよ “ジョン これも仕事さ”
“わかってくれるよな…”だとさ

Hey calling it your job 
ol hoss sure dont make it right
But if you want me to 
Ill say a prayer for your soul tonight

ヘイ そいつがおまえの仕事って言うのかい
なあ それでいいのか 確かめてくれよ
だけどおまえがそうしたいって言うんなら
俺は 今夜 おまえの冥福を祈ってやるよ

And grandmas on the front porch 
swing with a Bible in her hand 
Sometimes I hear her singing 
take me to the promised land
When you take away a mans dignity 
he cant work his fields and cows

玄関先に婆ちゃんがいて
揺り椅子で揺られ 手には聖書がある
ときどき 婆ちゃんが歌ってるのが聞こえる
“アタシを約束の地に連れてって”ってさ
おまえさんが人間の尊厳を奪っていくんなら
もう土地や牛たちとはやっていけないぜ

There'll be blood on the scarecrow
blood on the plow
Blood on the scarecrow 
blood on the plow

血まみれの木の十字架
血が染み込んだ農具
血まみれのカカシが立ってる
血が染み込んだ農具が残されてる

Well there's ninety-seven crosses 
planted in the courthouse yard
Ninety-seven families 
who lost ninety-seven farms

ああ そこには97本もの十字架が立ってる
裁判所の庭に立てられてるんだよ
97の農場を失った
97もの家族がそこにいるんだ

I think about my grandpa and my neighbors 
and my name and some nights
I feel like dying like that scarecrow in the rain

俺は爺ちゃんや隣人のことを思い
自分が受け継いだ名前のことを考える
死にたくなる夜もあるんだよ
雨のなか突っ立ってるカカシのように

[Chorus]

Rain on the scarecrow
blood on the plow
This land fed a nation 
this land made me so proud
And son I'm just sorry 
they're just memories for you now

Rain on the scarecrow 
blood on the plow
Rain on the scarecrow 
blood on the plow

木の十字架 に雨が降り
農具には血が染み込んでいる
この土地が国を養い 
この土地を俺は誇らしく思ってた
だが息子よ すまない
お前に残してやれる想い出なんてものも今はない

雨のなかに佇むカカシのように
血が染み込んでる 鍬や鋤に
雨のなかに佇む痩せっぽちの俺たち
農具には血が染み込んだまま…


(Words and Idioms)
barn =(農家の)納屋,物置; 牛[馬](の飼料)小屋
plow =(耕作用の)すき,すきに似たもの
*鋤(すき)…農作業や土木工事に使用された、地面を掘ったり、土砂などをかき寄せたり、土の中の雑草の根を切るのに使用される道具、農具。
legacy =遺産
crop=作物,収穫物
foreclose=(…を)除外する、 排除する、 締め出す、差し押さえる
Hoss=男、やつあるいは男性(guy、dude、man)を意味する表現

日本語訳 by 音時


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1985年には歴史的なライブ・エイドがありましたが、翌年の1986年の9月、イリノイ州シャンペーンで第1回のファーム・エイドが開催されました。
(こちらのWeb記事をご参照ください〜Tap The POP


◆ジョンは、ローリングストーン誌のインタビューで話しています。

 俺たちの曲はいつも同じように生まれる。フリータウンやインディアナ州のダッドリータウンのような町…俺たちは、なぜこれらの町が消えていくのかがわからなかったんだ。レーガンはソ連に対して穀物を使ったり(Reagan had been using grain against the Soviet Union )その他いろいろなことをしていたのさ。農民たちに話を聞くと、胸が張り裂けそうだったよ。誰も自分の農場を失いたくはなかったんだ。

当時のレーガン政権が打ち出した「強いアメリカ」戦略により急速に進んだドル高。それが農業の輸出量の激減となり、また対ソ連のへの農業戦略もあって、米国の農家は大打撃を受けました…。
小さい町で生まれたジョンのまわりにも畑を耕し家畜を買う農業従事者も多かったことでしょう。貧しくて農地を手放さなくてはいけなかった沢山の人たち。

 この曲はこうした人達の悩み、苦しみについて歌われた歌なんでしょう。激しいドラムに載せて、シャウトするジョンには訴えるものがあったんです。

Scarecrow2


◆この曲のSongfactsページからの情報です。

アルバムに収録されている“Lonely Ol' Night“では、ポール・ニューマンの映画、1963年の映画『Hud』の台詞が使われていると、以前和訳記事にて紹介しましたが、“Rain On The Scarecrow ”でもポール・ニューマンの映画「クールハンド・ルーク」(1967年)のセリフをモチーフにした場面が出てきます。(日本では「暴力脱獄」というタイトルで上映された様子)

かつては馴染みだった銀行員?(Schepman)が農場を差し押さえる場面で、ジョンの名前も出てくるところです。

「クールハンド・ルーク」では、ポール・ニューマン演じるルークを上司が「ボックス」(独房)に入れ、「すまないね、ルーク。俺は自分の仕事をしてるだけだ。感謝しろよ」と言います。ルークは「いや、仕事と言ったって、それが正しいとは限らないよ、ボス」と言うそうです。

◆2016年のロックの殿堂の展示で、ジョンはこう語っています。

"スケアクロウ "で、俺はようやくソングライターとしての足場を固め始めたところだった。ようやく、初めて、自分が歌で言いたかったと思っていたことが実現したんだ。 ...ローリング・ストーンズやボブ・ディランとは対照的に、テネシー・ウィリアムズやジョン・スタインベック、フォークナーに近いものにしたかったんだ。"

この曲はジョンにとって、農場で働く者への連帯意識を歌ったものであり、それがこの後の彼のファーム・エイドへの関わりを考えると、転機になった大切な曲でもあるのだろうと思います。


◆こちらこの曲のPV。畑だけでなく農業には畜産従事者も多いことに改めて気付かされました。あと大量(97本?)の白い十字架が印象に残りました。ふと、“Scarecrow”とはこの十字架からイメージしたタイトルなのでは?とも思いました。