エルトンの"Sacrifice".

 アルバム「Sleeping With The Past」からのシングル、この曲「Sacrifice」は、リリース当初の1989年のときには全英で55位、全米で18位という成績でした。しかし1990年の半ばにイギリスのDJであるスティーヴ・ライトがBBCラジオでこの曲を流し始めたところ、多くのDJ達もこぞってそれに続き、この曲は"Healing Hands"とダブルA面シングルとして再リリースとなりました。そしてエルトンのソロとしては全英で初のNo1シングルとなったのです。(それは知らなかった...!)

◆この曲を和訳するのに、この曲のWikipediaを見てみたら、
"エルトンとバーニーのコンビはアレサ・フランクリンの“Do Right Woman 、Do Right Man"に影響を受けて、この曲を書いた"とありました。
 アレサのこの曲は邦題“恋の教え”。大ヒット曲ではありませんが、アレサの代表曲の1曲には挙げられる曲ですね。(R&Bチャートでは37位を記録)

 アレサの“恋の教え”では"女の人も心を持ったヒト"であるにも関わらず、そのことに気づかない、あるいは軽視している男に警告をします。
 "あなたが女に日中に正しく(Do Right) いてほしいなら、男は夜中じゅう、正しくありなさい"と歌います。

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さて"Sacrifice"の主人公は、女の人をどう見ていた男なのでしょうか。

*“Do Right Woman、Do Right Man”の和訳記事はこちら

そして、まずは原詞と日本語訳です。続きは後半...!


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Songwriters JOHN, ELTON / TAUPIN, BERNIE
Lyrics c Universal Music Publishing Group

Released in 1990
US Billboard Hot100#18
UK Single Chart#1
From The Album"Sleeping with the Past"

*原詞の引用は太字です


It's a human sign
When things go wrong
When the scent of her lingers
And temptation's strong

人間なら誰でも見せる兆候さ
物事がうまくいかないときや
部屋に女性の残り香がするときには
誘惑の想いが強く込み上げてくる

Into the boundary
Of each married man
Sweet deceit comes calling
And negativity lands

結婚してるそれぞれの男の
境界線を越えてしまうんだ
甘い嘘の呼び声が聞こえて
悪い想いが心に根付いてしまう

Cold, cold heart
Hard done by you
Some things lookin' better, baby
Just passin' through

僕の冷たく 冷淡な心…
きみに顧みてもらえずに生まれたのさ
素敵に見える人もいたけど
ベイビー それは
ただ通り過ぎていくだけの女性

And it's no sacrifice
Just a simple word
It's two hearts livin'
In two separate world

But, it's no sacrifice
No sacrifice
It's no sacrifice, at all

でも「犠牲」とは思ってないよ
それはただの言葉の話
二つの心が
二つの別世界にいるってだけの話だよ

僕は「犠牲」なんて思ってない
決して「犠牲」なんかじゃない
きみは「犠牲」なんて言うけど
とんでもない話さ

Mutual misunderstandin'
After the fact
Sensitivity builds a prison
In the final act
We lose direction
No stone unturned
No tears to damn you
When jealousy hurts

後でわかることだけど
お互いに誤解していただけさ
神経を使いすぎて監獄を作ってしまった
そして最後には
僕たちは進む道を見失った
嫉妬心が心を傷つけ
どんなに道を探してもだめさ
きみを非難する涙もでやしない

Cold, cold heart
Hard done by you
Some things lookin' better, baby
Just passin' through

僕の冷たく冷淡な心
きみとの大変な暮らしのなかで
生まれてしまったんだ
心を魅かれるものがあったけど
それはただ通り過ぎていくだけ

And it's no sacrifice
Just a simple word
It's two hearts livin'
In two separate world
But, it's no sacrifice
No sacrifice
It's no sacrifice, at all

でも「犠牲」なんかじゃない
「犠牲」なんて簡単な言葉すぎるよ
別々な2人の人間が
別々な2つの世界に住むんだよ
でもそれは「犠牲」じゃない
「犠牲」なんかじゃない
「犠牲」なんかであるもんか

Cold, cold heart
Hard done by you
Some things lookin' better, baby
Just passin' through

And it's no sacrifice
Just a simple word
It's two hearts livin'
In two separate world
But, it's no sacrifice
No sacrifice
It's no sacrifice, at all

でも「犠牲」なんかじゃない
「犠牲」なんて簡単すぎる言葉さ
別々な2人の人間が
別々な2つの世界に住むんだよ
でもそれは「犠牲」じゃない
「犠牲」なんかじゃない
「犠牲」なんかであるもんか

No sacrifice, at all
No sacrifice, at all
No sacrifice, at all
No sacrifice, at all

「犠牲」なんかであるもんか
僕はそう信じてる…

 (Words and Idioms)
boundary=境界線
deceit=詐欺 虚偽
be hard done by=不当に扱われ(てい)る
mutual=相互の
After the fact=事後 犯行後
Sensitivity=神経の細やかさ 感受性
final act=大詰め
leave no stone unturned
=あらゆる手段を講じる くまなく探す

日本語訳 by 音時(On Time)

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◆この曲を書いた頃のエルトンと言えば、私的には1987年に行った長期公演では喉を悪化させてしまい、翌年に声帯の手術を行っています。

以降、ヴォーカル・スタイル及び歌声は大きく変貌しました。また、1984年にドイツ人のレコーディング・エンジニアであるレネーテ・ブリューエルと結婚しましたが4年後の1988年に離婚してしまいます。この頃(1980年代後半)はエルトンは、ゲイであることの人知れぬ苦悩や、薄毛のコンプレックス(80年代のエルトンは、必ずといっていいほど帽子を被っている)などで精神的にも不安定な状態が多く、過食症やアルコールの過剰摂取もいっそうエスカレートしていたといわれています。

 1991年、エルトンはシカゴのパークサイド・ルター病院に入院し、本格的な治療を受けることとなります。(そして、1992年に素晴らしいアルバム"The One"で復活してくれます!←この話はまた別な機会に)

*この曲のSongfactsより;

:人と人との恋愛関係において誠実であることがいかに大切なのかというのがこの曲だ。エルトンの作品の作詞を担当するバーニーはこの曲のリリースの前にMusic Connection magazine誌にこう説明している。
"この曲は単純な歌詞さ。でもとても知的な大人の歌詞なんだ。基本的には"愛の厳しさ"を歌っている。それは僕らの書いた「Your Song」と比べると百万年も離れた愛といえるよね"

*この曲のWikipediaより:

:バーニーはインタビューに答えてこう言っている。
"サクリファイスは僕の書いたなかでも最高の一曲だと思うよ。この曲は典型的なラヴ・ソングの括りには入らない。関係が失われた「結婚の破局」について、それが「犠牲なのかどうか」という曲なんだ。"

◆さて、前置きが長くなりました。

 アルバム「Sleeping With The Past」、シングル“Sacrifice“のアートワークも気になります。頭を抱え、ななめ下を向いて何かを思案するエルトン。

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 “Sacrifice“の主人公は、まず歌い出しの"It's a human sign…"からして、アレサの歌う"恋の教え"に未だ気づいていない男なんでしょうね。"誘惑が強く込み上げてくる"ときには、"結婚をしていても境界線を越え""甘い嘘の呼び声"が聞こえ、"悪い想いが根付いて"しまう…と歌います。

 "冷たく冷淡なハート"が生まれたのは"きみに不当に扱われた(hard done by you)"と自分自身を反省することなく、相手を責めて?いるようです。さすがに訳しててもこの男に不快感を持ちましたので、後半の和訳は「きみとの大変な暮らしのなかで生まれてしまった」と"なるようにしかならなかった感"で和訳しました(-_-;)。

 歌われている"サクリファイス=犠牲"、"No Sacrifice"とは具体的にはどんな意味なのでしょう?。
 このブログとしては、次の2つのうち、どっちなのか?決めかねて結構、時間をかけました。

(1)別離の「前」の"sacrifice"と"No sacrifice"…自分の心を偽って暮らすことやその日々が「犠牲」?でも「それでも楽しかったはずだよ」というのが「No Sacrifice」。

(2)別離の「後」の"sacrifice"と"No sacrifice"…この曲のPVでは、彼女が出ていってしまった後、娘さんを男が育てている様子が出てきます。彼女が去ったあとの生活は自分にとっての"犠牲"なのだろうか?

 そう思われるかもしれないけど、そんな単純なことじゃない。単なる"sacrifice"なんて単純な"言葉の話(just a simple words)で片付けられない。

 僕には大切な娘の暮らしができたんだ。もちろん彼女のことを何度も思い出したりするけど、娘との日々もまた大切に思っている。
 彼女と僕は、心をもう1つにすることはできないけど、2つの心が別々な2つの世界に住むようになったというだけのことさ。

…考えた結果、この男をちょっとは好きになりたくて、上記の"(2)別れた「後」の話"説の立場から訳詞としました。

◆この曲がイギリスで再発されてNo1になった話。DJであるスティーヴ・ライトさんはなぜ何度もBBCラジオでかけた理由は僕の調べた範囲ではわからないので、想像です!

人と人との関係は難しく、お互い理解し合えなく別れてしまうこともあるものだ。しかしそのことで、別離前の生活、そして別離後の生活が「犠牲」なんて言ってしまっていいのだろうか?
「決して犠牲なんかじゃない」。そこで何かが生まれるものがあるのではないだろうか?...

日本社会よりも離婚も多いという欧米社会のなかで"離婚"や"別離"をどう捉えるか?僕はこう思うよ…こうした、この曲の主題が"じわ~っ"と伝わっていったのではないでしょうか?


◆ライヴでの"Sacrifice"。ギターにはマーク・ノップラーとクラプトンの姿が見えますね。



◆再発時には、この曲"Healing Hands"と両A面となりました。フォー・トップスの "Reach Out, I'll Be There"に影響を受けた曲のようです。

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シングルジャケットはアルバム「Sleeping With The Past」のジャケットの別ショットなのかな。 





◆おおっこれは聴いてしまうなあ。ジェイムス・ブラントとエド・シーランが歌う“Sacrifice”。



(この記事で参考にしたページ)
・Wikipedia Sleeping With The Past
・Wikipedia Sacrifice
・Sacrifice Songfacts