ディランを初めて聴いたのはこの曲だったかもしれません。

ちょうど洋楽を聴き始め、エアチェックをしながら気に入ったものはレコードなどを買うようになったのもこの頃。アルバム「欲望」とシングル「ハリケーン」は当時、AMラジオでもスポットCMが流れ、この歌どんな内容なんだろう?と興味をそそられました。

でも当時、レコードは買わず(ムムッ)、アルバム「欲望」はFM放送でけっこう流してくれていて「モザンビーク」「コーヒーもう一杯」「オー・シスター」「ジョーイ―」「サラ」をテープに録音することができました。収録曲9曲中6曲を持っているんだから…お小遣いでレコード買うならほかにしてしまうでしょ?(^▽^;)

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◆でも「ハリケーン」のディランの激しいボーカル、次から次へと発せられる言葉は字余りでメロディを超越(!)していて、バックの女性ボーカルからズレているのも、ただ事じゃない感じ。(女性ボーカルいい声。そうか、彼女がエミル―・ハリスなんだ、といのも発見)。演奏ではヴァイオリン(演奏はスカーレット・リベラ)が途中途中で入り、物語を盛り上げます。
 
 8分という長さの曲ですが、次から次へと歌われて、聴き手も先へ先へと連れていかれてしまいます。買いはしませんでしたが、この曲のシングルは、曲をPart1とPart2に分け、それぞれA面・B面…4:56 (Part I)、3:37 (Part II)…にしてしまうというスゴい技が使われていました。

◆「ハリケーン」は、人種差別を背景にして、無実の罪で殺人犯にでっち上げられて、10年以上もの獄中生活を余儀なくされたボクサー「ルービン"ハリケーン"カーター」を歌った歌。ディランはカーターの自叙伝を読んで興味を持ち、ニュージャージー州のラーウェイ州刑務所に彼を訪問し、話を聞きました。そして彼を救うため、また、こうした状況を生み出す社会に対しての批判を歌にします。

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 75年12月8日には、ハリケーン・カーター支援のチャリティコンサートも開かれました(ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデン)。日本では発売がありませんでしたがライヴレコードも発売されたようですね。セットリストとしてもアルバム「欲望」から多く歌われていて、聴いてみたいです。

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◆ウィキペディアによると、「ハリケーン」は1975年7月には一度完成するが、弁護士から事実誤認を指摘されたため、10月24日に歌詞を直して再レコーディングし、11月にアルバム先行シングルとして発表されます。なお、カーターは一旦釈放されたものの再び投獄。1988年に釈放され、カーターの半生を元にした映画『ザ・ハリケーン』(1999年公開)では、本作収録の「ハリケーン」がサウンドトラックで使用された、とのこと。

おお、こちらのサイトに映画「ハリケーン」のことが出ていますね。2000年に公開、主演はデンゼル・ワシントンだったんですね。「心の時空

歌詞と和訳は以下の通りです。さすがに辞書を引いた回数も入れて、時間がかかりました(^▽^;)。
でも…創作・誇張を割り引いたとしても、酷い話です…。


HurricaneBb


Songwriter(s)
Bob Dylan, Jacques Levy

Released in 1975
US Billboard Hot100#33
From The Album“Desire”(欲望)

:原詞は太字

[Verse 1]
Pistol shots ring out in the barroom night
Enter Patty Valentine from the upper hall
She sees the bartender in a pool of blood
Cries out, “My God, they killed them all!”
Here comes the story of the Hurricane
The man the authorities came to blame
For something that he never done
Put in a prison cell, 
but one time he could-a been
The champion of the world

銃声が鳴り響いた 酒場の夜のこと
パティ・ヴァレンタインが
上の階からやってきて
バーテンダーが
血の海に倒れているのを見て叫ぶ
"たいへん!大勢が殺されてるわ!"
ここに こうしてハリケーンの話が始まる
権力に罪を着せられた男の話さ
何も悪いことをしていないに
独房に入れられてしまったのだ かつては
世界チャンピオンにもなれたはずだったのに

[Verse 2]
Three bodies lying there does Patty see
And another man named Bello, moving around mysteriously
“I didn’t do it,” he says, 
and he throws up his hands
“I was only robbing the register,
 I hope you understand
I saw them leaving,” he says, and he stops
“One of us had better call up the cops”
And so Patty calls the cops
And they arrive on the scene 
with their red lights flashing
In the hot New Jersey night

パティが見たのは横たわる3人の身体
もうひとり べロウという名の男が
怪しげにうろついていた
"俺はやってない" 
ヤツはそう言って両手を挙げる
"レジのカネをちょろまかしてただけだ
 わかってくれ"
"俺はヤツらが出ていくのを見たんだ"
 そう言って黙り込む
"誰か 警察を呼んだ方がいい"
そうしてパティが警察に連絡したところ
警察が現場に到着したんだ 
赤いランプを点滅させて
暑いニュー・ジャージーの夜の出来事さ


[Verse 3]
Meanwhile, far away in another part of town
Rubin Carter and a couple of friends are driving around
Number one contender 
for the middleweight crown
Had no idea what kinda shit 
was about to go down
When a cop pulled him over 
to the side of the road
Just like the time before 
and the time before that
In Paterson that’s just the way things go
If you’re black you might as well 
not show up on the street
Unless you want to draw the heat

ちょうどその頃  街の別な離れた場所で
ルービン・カーターは
2人の友だちと車に乗っていた
ミドル級王座挑戦の第一人者は
どんな馬鹿げた話が降りかかろうと
してるのか知るはずもなかった
警官に車を道ばたに寄せさせられたときは
その前も その前の前もそうだったように
パターソンじゃ そうなるのが決まりごと
黒人だったら 街路には出ない方がいい
いろいろと尋問を受けたくなければな

[Verse 4]
Alfred Bello had a partner 
and he had a rap for the cops
Him and Arthur Dexter Bradley were 
just out prowling around
He said, “I saw two men running out, they looked like middleweights
They jumped into a white car 
with out-of-state plates”
And Miss Patty Valentine 
just nodded her head
Cop said, “Wait a minute, boys, 
this one's not dead”
So they took him to the infirmary
And though this man could hardly see
They told him that
he could identify the guilty men

アルフレッド・べロウには相棒がいて
そいつには容疑がかかってた
べロウとアーサー・デクスター・ブラッドリーは獲物を探してうろついてたんだ
ヤツは言った
"俺は二人の男が走っていくのを見た
ヤツらはミドル級くらいの体格で
他の州のナンバープレートの
白い車に飛び乗ったんだ"
パティ・ヴァレンタインはただうなずいて
警官は"ちょっと待て こいつまだ生きてるぞ"
そしてそいつを病院に運んだんだ
その男はほとんど目が開かなかったが
誰が犯人か判別できるはずだと
そう言ったんだ


[Verse 5]
Four in the morning and they haul Rubin in
Take him to the hospital 
and they bring him upstairs
The wounded man looks up 
through his one dying eye
Says, “Why did you bring him in here for?
He ain't the guy!”
Yes, here’s the story of the Hurricane
The man the authorities came to blame
For something that he never done
Put in a prison cell, 
but one time he could-a been
The champion of the world

朝の4時に 警官らはルービンを連れてきた
病院へ連れてきて 病室へと上がらせた
傷ついた男は死にかけた片目で
見上げて言った
"何でコイツを連れてきたんだ?
コイツは犯人じゃない!"
そう これがハリケーンの物語の始まりさ
権力に無実の罪を着せられたんだ
何もやっていやしないのに
独房にぶち込まれたんだ かつては
世界チャンピオンになれたほどのヤツなのに


[Verse 6]
Four months later, the ghettos are in flame
Rubin’s in South America, 
fighting for his name
While Arthur Dexter Bradley’s still in the robbery game
And the cops are putting the screws to him, looking for somebody to blame
“Remember that murder that 
happened in a bar?”
“Remember you said 
you saw the getaway car?”
“You think you’d like to play ball 
with the law?”
“Think it might-a been that fighter 
that you saw running that night?”
“Don’t forget that you are white”

4カ月後のこと ゲットーは盛り上がっていた
ルービンは南アメリカでの試合で
名前を上げていた
一方で
アーサー・デクスター・ブラッドリーは
相変わらずの泥棒稼業
警官はヤツを締め付け 
罪を着せる野郎を探してた
"バーでの殺人事件を忘れちゃいないよな?"
"おまえは逃げる車を見たと言ったよな?"
"法律の味方をしたいとは思わないか?"
"おまえがその夜見たのはもしかして
 このボクサーじゃなかったか?"
"自分が白人だってことを忘れるなよ"

[Verse 7]
Arthur Dexter Bradley said, 
“I'm really not sure”
Cops said, 
“A poor boy like you could use a break
We got you for the motel job 
and we’re talking to your friend Bello
Now you don’t want to have to go back to jail, be a nice fellow
You’ll be doing society a favor
That sonofabitch is brave and getting braver
We want to put his ass in stir
We want to pin this triple murder on him
He ain’t no Gentleman Jim”

アーサー・デクスター・ブラッドリーは
言った
"はっきりは覚えてないけれど…"
警官は"おまえのような貧しいガキは
ゆっくりしたらどうだ"
"おまえにはモーテルの仕事も与えてやったし 
友人のべロウにはもう話を付けてある"
"今となっちゃ刑務所には戻りたくないだろ?
まともな人間になって
社会のために役に立つんだよ"
"あの生意気な野郎は付け上がってやがる"
"ケツを蹴とばして刑務所にぶち込んでやる"
"3人殺しはアイツの仕業ってことにするんだ"
"ヤツが「鉄腕ジム」のはずはねえ"

[Verse 8]
Rubin could take a man out 
with just one punch
But he never did like to talk about it 
all that much
"It’s my work," he’d say, "and I do it for pay
And when it’s over I’d just as soon go on my way"
Up to some paradise
Where the trout streams flow 
and the air is nice
And ride a horse along a trail
But then they took him to the jailhouse
Where they try to turn a man into a mouse

ルービンはたったの一発のパンチで
相手を倒せたが
あまりそのことを話すのは好きじゃなかった
"俺の仕事さ""稼がなきゃならないから"
そうヤツは言う
"引退したら すぐに
自分のやりたいことをやるんだ"
どこかのパラダイスに行って
マスのいる小川の流れる空気のいい場所で
小道に沿って馬を乗り回すのさ
でもそのとき ヤツらは
彼を牢屋にぶち込んだのさ
そこは一人の男を
一匹のネズミに変えようとする場所…


[Verse 9]
All of Rubin’s cards were marked in advance
The trial was a pig-circus, 
he never had a chance
The judge made Rubin’s witnesses drunkards from the slums
To the white folks 
who watched he was a revolutionary bum
And to the black folks 
he was just a crazy nigger
No one doubted that he pulled the trigger
And though they could not produce the gun
The D.A. said
he was the one who did the deed
And the all-white jury agreed

ルービンのカードはあらかじめ
印が点けられた
裁判は"豚のサーカス"みたいなもので 
彼には弁明の機会も与えられなかった
裁判官はルービン側の目撃者を
スラムの酔っ払いだと片付けた
白人の陪審員にとっては 
彼を過激派の浮浪者とみなし
黒人の陪審員も
彼を頭のおかしい黒人だとと判断した
犯行に使った拳銃は出てこなかったけれど
誰も彼が引き金を引いたと疑いもしなかった
判事は犯行は彼がやったと断言し
白人の陪審員はみな有罪で一致した

[Verse 10]
Rubin Carter was falsely tried
The crime was murder “one,” 
guess who testified?
Bello and Bradley and they both baldly lied
And the newspapers, 
they all went along for the ride
How can the life of such a man
Be in the palm of some fool’s hand?
To see him obviously framed
Couldn’t help but make me feel ashamed 
to live in a land
Where justice is a game

ルービン・カーターは不当逮捕されたんだ
第1級殺人の罪  誰が証言したかというと
驚くなかれべロウとブラッドリーだった
二人とも露骨に嘘をつき
新聞はみな それに同調したんだ
彼のような人間の人生が
馬鹿野郎たちの
手のひらに握られていいんだろうか?
彼を見れば 無実の罪であることは明白だ
こんな国に生まれたことを
恥じずにはいられない
ここでは正義はゲームでしかないのだ

[Verse 11]
Now all the criminals 
in their coats and their ties
Are free to drink martinis 
and watch the sun rise
While Rubin sits like Buddha in a ten-foot cell
An innocent man in a living hell
That’s the story of the Hurricane
But it won’t be over till they clear his name
And give him back the time he’s done
Put in a prison cell, 
but one time he could-a been
The champion of the world

今や 罪人はみな コートとネクタイをして
マティーニを自由に飲み 日の出を眺めてる
ルービンは10フィートの独房で
まるでブッダのように座ってるんだ
生きながらの地獄に入れられた無実の人間
これがハリケーンの物語
だが汚名が晴らされない限り終わりはしない
失われた時間が戻るまでは終わらない
独房にいれられた かつては名を馳せた
世界チャンピオンになれたはずの男…


(Words and Idioms)
Authorities=政府、当局、省庁、官庁、行政府
meanwhile=(2 つのことが起こる)その間に,(次のことが始まる)それまでは.
contender=(タイトルなどをねらう)競争者、(タイトルマッチの)挑戦者
unless=…でない限り,もし…でなければ
draw heat=(Slang)Unwanted or unnessary attention to self or others
rap=(ある特定の)犯罪容疑,嫌疑,判決 
cf.a murder rap(殺人容疑)
prowl=(獲物を求めて・盗みの機会をねらって)うろつく,徘徊する
nod one's head=軽く会釈する, 頷く, 首を縦に振る
infirmary=病院、診療所、保健室、診察室
put the screw(s) (on [to] a person)
=(人に)圧力を加える;借金を強硬に取り立てる
play ball withの= 〔…と〕協力する 
do someone a favor=(人)のために役立つ、
stir=[名]((米略式・やや古))刑務所
pin on=〔責任を〕(人)に負わせる 〔罪を〕(人)に着せる
"Gentleman Jim"=「鉄腕ジム」1942年の「美しいスポーツ」映画。
(「日常映画」さんのサイト)
trout=マス
trail=痕跡;小道,獣道.
in advance=あらかじめ
trial=裁判
bum=浮浪者,ルンペン
DA=《district attorney》米国で、地方検事
deed=行為、行い、行動
jury=陪審
falsely=偽って、不誠実に、不当に
be tried= 試練を受ける
testify=【自動】証言する
baldly =露骨に
go along for the ride=尻馬に乗る 〔付き合いとして〕仲間に加わる
framed=額[フレーム]に入れられた 無実の罪を受けた

日本語訳 by 音時

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◆いらない補足情報になるかもしれませんが、ディランが歌った内容は「事実とは違う」という様々な批判もあったようです。 
 こちらのサイトはディランの歌詞に書かれた当時の事件の様子や登場人物の証言を実際どうだったのか、検証しているページのようです。

卑怯な人間として歌われた、べロウやブラッドリー、パティ・ヴァレンタインからの抗議はもちろんのこと、あと、カーターは世界チャンピオンのナンバーワン候補ではなかった、という主張なんかもありますね(^▽^;)

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(こちら僕の持っている雑誌「Music Life」1976年4月号の広告ページ。上4/5はジャニス・イアン「愛の余韻」の広告)
キャッチコピーは、”君はもう聴いたかい?美と真実が君を打つ!!”