この曲「地下鉄の壁の詩」は、アルバムでは"エミリー・エミリー"と“7時のニュース/きよしこの夜”の間に挿入されていて、歌詞もしっかり味わおうとしないと、印象に残らず終わってしまう曲でした。僕の場合には。
◆2人の詩の朗読かな…と思いきや、メロディではなく歌い方を途中で変えたりしながら聴かせますね。何かの想いを伝えよう…ストーリー・テリングっていうのかな。歌い終わりも「終わり」って感じがしない、2分もかからない短い曲です。男の足音なのか、列車の車輪の音なのか、効果音も使われて、不思議な感じを出してます。
歌詞は…ポール・サイモンの味が出てますね。でも、この曲はアート・ガーファンクルのライヴでも定番のようです。アートにとって気に入っているポールの作品なのでしょう。(S&Gのハーモニーとしては聴けないがちょっと残念…どの曲も言えることですが)
(P-.Simon)
Lyrics © Universal Music Publishing Group
Released in 1966
From The Album
“Parsley, Sage, Rosemary and Thyme”
:原詞は太字
The last train is nearly due
The underground is closing soon
And in the dark deserted station
Restless in anticipation
A man waits in the shadows
最終電車がまもなく到着する予定だ
地下鉄が閉まろうとしている
人のいなくなった暗い駅
せわしなく何かを期待した一人の男
物陰で何かを待っている
His restless eyes leap and scratch
At all that they can touch or catch
And hidden deep within his pocket
Safe within its silent socket
He holds a colored crayon
男は落ち着きのない様子で
触れるものや掴めるものすべてに
視線を飛ばしては凝視してる
何かをポケットの奥に隠してる様子だ
落ち着いた目で安全に持っているのは
色付きのクレヨン
Now from the tunnel's stony womb
The carriage rides to meet the groom
And open wide and welcome doors
But he hesitates, and then withdraws
Deeper in the shadows
石でできたトンネルは子宮のようだ
そこからやってきた列車が男の前に来て
ドアを大きく開いて迎える
男はその誘いにもためらって
次には暗闇に引っ込んでしまう
And the train is gone suddenly
On wheels clicking silently
Like a gently tapping litany
And he holds his crayon rosary
Tighter in his hand
車輪を静かにきしませて
みるみるうちに列車は出ていった
唱えた祈願に唱和するように優しく
男の握りしめた手には祈りの道具
それはクレヨンのロザリオさ
Now from his pocket quick he flashes
The crayon on the wall he slashes
Deep upon the advertising
A single worded poem consisting
Of four letters
そして今
男はすばやくポケットから取り出して
クレヨンで壁に殴り書きをした
広告の上にはっきりと
4文字から成る たった一つの詩を
And his heart is laughing,
screaming, pounding
The poem across the tracks rebounding
Shadowed by the exit light
His legs take their ascending flight
To seek the breast of darkness
and be suckled by the night
彼の心は ほくそ笑み
叫んでいる 心臓が波打っている
彼の書いた詩は出口を示す明かりの影になり
線路の向こうに響き渡る
男の足はもう階段を昇ってる
暗闇の乳房を探して
夜には甘えたくなってるんだ
(Words and Idioms)
deserted=人のいなくなった
socket=受け口、眼窩
womb=子宮 ものの成長するところ
carriage=客車の車両
groom=花婿 馬の世話をする厩務員
withdraw=引っ込める
litany=連祷(れんとう)
リタニア 《聖職者の唱える祈願に会衆が唱和する形式》.
slash=切りつける 激しく打つ
advertising=広告
rebound=跳ね返る
ascending=昇っていく 上昇的な
suckled=乳を飲む
日本語訳 by 音時
◆場面は地下鉄。まもなく最終列車の時間なのですが、その暗闇にとある男が隠れています。ポケットには…クレヨン。
歌詞は韻が沢山踏まれていますが、キリスト教にちなんだ言葉やら、「womb=子宮」「breast=乳房」「suckled=乳を吸う」など母性的な言葉も散りばめられていますが、男がクレヨンで地下鉄の広告の上に殴り書きをした詩は、4文字からなる一言だけ。これはおそらく「F***」でしょうね。そして男は地下鉄のシャッターが閉まる前に「出口へ向かう階段を昇って(take their ascending flight)」行ってしまいます。こんな光景や主人公を歌う歌を書くポールはやっぱり詩人ですね。
◆「Live From New York City 1967」より。歌う前にこの曲を書いた当時の話をアートがしています。「水曜の朝、午前3時」のアルバムジャケットの撮影をN.Yの地下鉄で行い、500枚も写真を撮りました。
その時、壁の落書きが写っていて「4文字」が書いてあるのを見て彼らはそれを気に入って使いたかったけど、コロムビアレコードに却下された。(このへん、“気に入った”というアートの話に観客がウケています。僕には細かいニュアンスがわからず、なぜそこまでウケてるのかはわかりませんが…)「地下鉄の壁の詩」はそれから2年後にポールが書いた曲、とのことです。
◆これも当時の映像。貴重だなあ。
コメント
コメント一覧 (2)
音時
が
しました
(S&Gファンの一人として)
このアルバムは中学生の時に、小遣いを貯めて買いました。今でも、取ってあります。
「スカボロー・フェア」「クラウディ」「早く家に帰りたい」「エミリー、エミリー」「雨に負けぬ花」「59番街橋の歌」など名曲揃いですが、中でも一番好きなのは「夢の中の世界(途切れた会話)」。
二人の佇む部屋の雰囲気と心理的な距離感の描き方が秀逸です。ポールは、素晴らしい詩人ですね。思春期の頃は、とても影響を受けました。
音時
が
しました