トム・ウェイツと言えば、しわがれ声の「酔いどれ詩人」。この曲「トム・トラバーツ・ブルース」が代表曲と言っていいでしょう。

この曲を最初にFMラジオで聴いたときは何を歌っているんだろう?と気になって仕方がありませんでした。歌詞で繰り返される"waltzing Mathilda"という単語、そしてタイトルの「トム・トラバーツのブルース」とは一体何を指しているんだろう?

意味がわかったのはその後、数年経ってからでした。

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◆(ワルチング・マチルダとは)ウィキペディアを見てみると…。
・オーストラリアが発祥の歌で、同国を代表とする歌として国内外を問わず世界的に広く知られた歌である。同国の国歌とする提案が何度も出された。
・貧しい放浪者が羊泥棒を働いて、追いつめられて沼に飛び込んで自殺するというストーリーの歌である。 ワルチングは「当てもなくさまよい歩く」という意味で(この曲は、ワルツの三拍子ではない)、マチルダは「寝袋かその他の寝具が束になったもの」である。身寄りのない一人の貧しい放浪者が毛布だけでオーストラリア大陸をさまようという設定である。
・「Who'll come a-walzing Matilda with me?  誰か俺と一緒にマチルダワルツ(毛布ひとつで放浪)するやつはいないか。」 (後略)
という意味だということがわかりました。トムは「Waltzing Mathilda」とは「毛布ひとつで放浪」という意味で"You'll go waltzing Mathilda with me"は「おまえも俺と一緒に(毛布ひとつで)放浪しないか?」って意味なんですね。

...と解説はまずはここまでとして、この曲の歌詞と日本語訳を先にどうぞ。
(記事は後半に続きます)

(Tom Waits)

Released in 1976
From The Album“Small Change”

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Wasted and wounded,
it ain't what the moon did,
I've got what I paid for now
See you tomorrow, hey Frank,
can I borrow a couple of bucks from you

疲れ果ててケガしちまった
月が出てたからなんて言わねえよ
今になってツケがまわってきただけさ
明日会おう なあ フランク
2ドルばかし貸してくんねえか

To go waltzing Mathilda,
waltzing Mathilda,
You'll go waltzing Mathilda with me

またフラッと旅に出るんだ
ウォルチング・マチルダさ
おまえも俺と一緒に行かないか

I'm an innocent victim of a blinded alley
And I'm tired of all these soldiers here
No one speaks English,
and everything's broken,
and my Stacys are soaking wet

俺は行き止まりに迷い込んだ罪のない犠牲者
ここいらの兵士たちにはもう飽き飽きさ
誰も英語をしゃべらないし
なにもかもめちゃくちゃさ
俺の靴もすっかり濡れちまったよ

To go waltzing Mathilda,
waltzing Mathilda,
You'll go waltzing Mathilda with me

フラッと出て行こう へべれけでな
おまえも俺と一緒に行かないか...

Now the dogs are barking
and the taxi cab's parking
A lot they can do for me
I begged you to stab me,
you tore my shirt open,
And I'm down on my knees tonight
Old Bushmill's I staggered,
you'd bury the dagger
In your silhouette window light go

犬は吠え タクシーが停まってる
ヤツらも俺にできることがあるのにな
俺を刺してくれってお願いしたら
俺のシャツを破きやがった
だから今夜 俺はやめてくれって頼んでるのさ
オールド・ブッシュミルを煽ってふらふらだ
窓に映る おまえのシルエットに
おまえは短剣を突き刺したんだ

To go waltzing Mathilda,
waltzing Mathilda,
You'll go waltzing Mathilda with me

そして旅にフラッと出るんだ
へべれけなままで
おまえも俺と一緒に旅に出ようぜ

Now I lost my Saint Christopher now
that I've kissed her
And the one-armed bandit knows
And the maverick Chinamen,
and the cold-blooded signs,
And the girls down by the strip-tease shows,

何度もキスした聖クリストファーのペンダントを
失くしちまったよ
知ってるのはスロット・マシーンってことさ
他には 一匹オオカミの中国人 冷酷にぶら下がる看板
ストリップショーの女たちがご存じってとこか

go
Waltzing Mathilda,
waltzing Mathilda,
You'll go waltzing Mathilda with me

行こうぜ
フラッと歩いていくんだ 
千鳥足だけどな
おまえも俺と一緒にどうだい

No, I don't want your sympathy,
the fugitives say
That the streets aren't for dreaming now
And manslaughter dragnets
and the ghosts that sell memories,
They want a piece of the action anyhow

いや同情なんかはいらない
逃げたヤツらはそう言ってる
今や通りで夢なんて見ちゃいられないってさ
殺人犯の捜査網 想い出を売る幽霊たち
ヤツらはとにかく分け前が欲しいだけなんだ

Go waltzing Mathilda,
waltzing Mathilda,
You'll go waltzing Mathilda with me

フラッと歩いていくんだ 
千鳥足だけどな
おまえも俺と一緒にどうだい

And you can ask any sailor,
and the keys from the jailor,
And the old men in wheelchairs know
And Mathilda's the defendant,
she killed about a hundred,
And she follows wherever you may go

どの船乗りにも聞いてみろよ
鍵は看守が持ってんだ
車椅子のじいさんがご存じのことさ
マチルダが被告で 
彼女が100人も殺したって
おまえさんがどこに行こうと 付いてくるんだ

Waltzing Mathilda,
waltzing Mathilda,
You'll go waltzing Mathilda with me

ウォルチング・マチルダ
ふらっと行けよ
俺と一緒に夢を追いかけないか

And it's a battered old suitcase
to a hotel someplace,
And a wound that will never heal
No prima donna, the perfume is on
An old shirt that is stained
with blood and whiskey
And goodnight to the street sweepers,
the night watchmen flame keepers

And goodnight to Mathilda, too

ぼろぼろのスーツケースを持って
どこかのホテルに出かけよう
治ることの決してない傷がついたままで…
香水の香りのするプリマドンナなんていない
あるのは血とウイスキーが染みついた
古いシャツだけ
通りの掃除人 夜回りの警備人にも
おやすみを言うよ

そしてマチルダにも おやすみ…

(Words and Idioms)
Buck=Dollar($)ドル
a couple of dollars=2ドル
blind alley=袋小路 行き詰まり
Stacy=stacy adams=メンズ・シューズ
stagger =〔倒れそうなほど〕よろめく、ふらつく
cf.bury a dagger in the breast=短剣を胸に突き刺す
Saint Christopher=セントクリストファー=海や川を旅する人を守る聖人
one-armed bandit=自動賭博機,スロットマシーン
maverick=無所属の人、異端者、一匹狼、焼き印のない牛
fugitive=逃亡者,亡命者,落武者
manslaughter=《法律》故殺(罪)、過失致死罪
dragnet=底引き網 警察の捜査網、捜査網
a piece of the action=利権, 分け前
defendant=被告
battered=ぼろぼろの

日本語訳 by 音時

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◆(タイトルの"Tom Traubert"について)

この曲のSongfactsページに次のように出ていました。
…ヤツは俺の友だちだったんだ…デンバーに住んでいて、牢屋の中で死んじまった。そう、この曲はいろんな意味を持たせてる。でも一番のアイデアは"Matilda"はバックパックだから、この場をあてがなくても出て行くんだ(go on the loose)、旅に出ろ、夢を追いかけるがいい"ってことなんだ。
僕は"トム"って付くものだから"トム"=トム・ウェイツ自身のことだろうと思っていたのですが、どうもそうではなくて、監獄のなかで死んでしまったトム・ウェイツの友人の名前が"Tom Traubert"というらしいですね。
また、この曲を書いた背景についても少し記述がありました。
トム・ウェイツはこの曲をロサンゼルスの路上生活者(skid row)に会い、1パイントのライ・ウイスキーを飲んで、飲み干した後に書きました。
 この曲のコーラスは有名なオーストラリアを代表する歌"Waltzing Matilda"を元にしています。この曲のなかでは"アルコール依存のサイクル"(the cycle of alcoholic behavior)を歌っています。
◆トム・ウェイツは、路上生活者と会い、話をしたことと、監獄で一生を終えた友人トム・トラバーツの人生を踏まえて、根なし草のように放浪する人生のことを歌ったんでしょうね。風景の刺激的な描写も具体的に何を指しているのかわからない箇所も多いのですが、酒に酔いへべれけになるなかで空想が広がっていったのでしょうか。言ってしまえば、Songfactsの表現にあるように、"アルコール依存のサイクル"の歌、で間違いはないのですが…(-_-;)。
 
TomWai

 それでも、この曲1曲でトム・ウェイツが「詩人」とも表現されるシンガーソングライターであり、誰とも比べられないような独特な渋いしわがれ声の魅力的なシンガーであることが十分に伝わってくるのではないかと思います!

◆2009年から2010年にかけて、フジテレビで日曜劇場ドラマで唐沢寿明さん主演の「不毛地帯」が放映されました。

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この主題歌に「Tom Traubert's Blues」が使われたのには驚きました。毎回のエンディングにこの曲が流れます。(曲の冒頭とラストを繋ぎ合わせ、短く編集されていました)シベリアを思わせる豪雪の風景がだんだんクローズアップされていくと、そこに佇む主人公「壱岐」(唐沢寿明さん)が…。これが本当にマッチしてたんですよね...。このとき再発になったトム・ウェイツのCD「スモール・チェンジ」を購入しました...(^▽^;)



◆ピアノを弾きながら歌うトム。渋い…。




◆「不毛地帯」のエンディングの動画がありました…。