1989年のアルバム「ストーム・フロント」から「State Of Grace(愛する君に)」です。
◆アルバム「ストーム・フロント」のプロデューサーは、フォリナーのミック・ジョーンズ。ビリーはこれまでのフィル・ラモーンではないプロデューサーを起用。これまでと違うテイストのアルバムを作ろうとしたんですね。(最初はヴァン・ヘイレンのエドワード・ヴァン・ヘイレンにお願いしたかったという話…)
その結果…ハイ、分厚いロック・サウンドが実現しましたね。これまでに「ストーム・フロント」の曲も数曲和訳してきましたが"We Din't Start The Fire"や"I Go To Extremes"など、特にそう感じますね!
邦題「愛する君に」というこの曲「State Of Grace」。曲を聞く前に邦題を見た方はどんな曲をイメージされたでしょうか。ハイ、やっぱりバラードですかね?すると…見事に裏切られます!
邦題を付けた人、曲を聴く前に邦題を考えてるんじゃないかな…(^▽^;)。

(Billy Joel)
Released in 1989
From The Album"Storm Front"
*原詞の引用は太字
*原詞の引用は太字
There you go,
slipping away into a state of grace
I know the look that comes across your face
It's so familiar to me
ほらまた そうさ
きみは逃げるんだ "神さまの元"にね
きみの顔によぎる表情でわかるんだ
僕にはもう慣れっこなのさ
Here I am,
trying to keep you in my line of sight
I'm never certain that you read me right
Sometimes you don't want to see
僕はここにいる
きみから目を離さずにいる
でもきみが僕を正しくわかってるのか自信ないんだ
きみは時々僕を見たくないようだから
Here we are,
both of us know we're in love
But that isn't always enough
I never could rise above it all,
down I fall
僕らふたり…
互いに恋してるってわかってる
でもいつだって納得できてないのさ
僕はちっともその状況を乗り越えられず
落っこちてしまうんだ
But darling there you go,
slipping away into a state of grace
Granted, this world is not a perfect place
Still it's the world that I'm in
でもダーリン ほら きみはまた
神さまのせいにして逃げてしまうんだ
もちろん この世の中は完全な世界とは言えないさ
でもね 僕はこの世界にいるんだよ
Here I am
talking while you don't hear a word I say
Knowing you're watching me from far away
Somewhere that I've never been
ここにいる僕
きみが一言も聞いてくれなくても話してる
わかってる きみは遠くの場所から僕を眺めてる
僕の行ったこともないようなどこかから
Don't you see,
you lived a different life than me
It doesn't mean you have to be afraid of how
We're not the same,
Don't leave me now
わからないの?
確かにきみは僕とは違う人生を歩んできた
でもだからといって 僕たちが違う人間だなんて
思わなくていいんだよ
僕から去って行かないで
But darling there you go,
slipping away
でもダーリン ほらきみはまた
すり抜けていく…
How can I get you to stay where you are
Keep you for going too far
Holding you here is so hard to do...
I'm losing you
どうしたらきみのままでいてもらえるのか
遠くに行ってしまうきみを引き留められるのか
ここできみを抱きしめることでさえ難しい…
きみを失いかけてるんだ…
there you go,
slipping away into a state of grace
Drifting away into your sacred place
Someplace that I've never been
ああ まただ
きみは神さまのせいにして逃げ込むんだ
きみの神聖な場所に流れに身をまかせて
僕の行ったこともないような場所へと…
There you go,
slipping away, slipping away,
into a state of grace
There you go, slipping away
into a state of grace
There you go...drifting away...
ああ まただ
きみはすり抜けていく 出て行ってしまう
神さまの恩寵のもとへと
また同じように すり抜けていくんだ
僕と言う人間に向き合ってはくれない
きみが行ってしまう 漂うかのように…
(Words and Idioms)
come across=〔感情や考えなどが〕思い浮かぶ、心をよぎる
line of sight=〔目の〕視線
rise above=~の上にそびえる、~を突破する
granted=仮に…だとしても
日本語訳 by 音時

◆この曲を和訳していて、やっぱり一番戸惑ったのが、タイトルにある"State Of Grace"という言葉。どういう意味だろう?
辞書を引くと
*(Weblio)では…
「神による聖別の状態」(a state of sanctification by God)
*英辞郎on the webでは…
「神の恵み[恩恵・恩寵]を受けている状態」
とありました。
歌詞にあるように、2人はまだ愛し合っているはず。なのに彼女は、主人公が見つめているのに目を合わさず、いつも、そして何度も"state of grace"のなかに"slip away"してしまいます。彼はこの世界に生きていることを自覚しているのに対して、彼女は"神さまの恩寵"のなかに逃げ込んでいく…。
◆彼は彼女に「自分というひと」に触れて欲しい、と思っているんじゃないかな。不完全なものを不完全と認めて、そのうえで、僕たち二人は同じものも違うものもある、そう認め合うことが必要なんじゃないか。そう思っていても、彼女は「私とあなたは違う人間なのよ」などと言って、「ひと」に向かい合わず、口癖は「神さまの決めたこと」「神さまの思し召し」などと口にしたりするのではないかな。
「"state of grace"に"slip away"」する=については僕はそのように解釈しました。
◆テイラー・スウィフトにも"State Of Grace"という歌がありますね(Album"Red"のオープニングナンバーで2012年 全米13位)
。歌詞は"This is a state of grace、This is a worth while fight…"。恋について"これは神様の与えてくれたもの、この恋は戦う価値のあるもの"と言ったような歌詞です。うーむ、ビリーの歌詞で使っている"state of grace"とは真逆な意味のように思います…。

◆プライベートでは、85年にクリスティ・ブリンクリーと結婚したビリー(ビリーにとっては二度目の結婚)。翌年の1986年に発表したアルバム"The Brigde"ではこの結婚を機に家族を守っていくビリーの前向きな決意が伺えたりします。でもその次のこの「Storm Front」はこの結婚生活に関してはちょっと微妙な関係を暗示していましたね。そして…1993年の「River Of Dreams」。1994年に離婚…。
まあ、ビリーがこの「State Of Grace」の曲の主人公のようにいつも誠実で彼女に向き合おうとしていたかというと、浮気を重ねたのはビリーの方(^▽^;)という話もありますな。
(こういった話を歌の歌詞に重ねてああだこうだいうのは本当は好きじゃないのですが…)
◆ビリーとクリスティという実在するカップルの話はおいておいて、この曲を歌詞含めて味わってみると…なかなか辛いですよね。二人の間のすれ違いを感じていても、もうどうすることもできない。彼女を失いかけている、Slip Awayする彼女に何もできない…。 「愛する君に」って邦題はやっぱりふさわしくないよな…。
◆"Storm Front"ツアーでの"State Of Grace"。音源のみです。
◆テイラー・スウィフトの「State Of Grace」です。
◆国内アーチストの"KAN"さんの大ヒット曲「愛は勝つ」。ビリーの"アップタウン・ガール"そして"愛する君に(とくにイントロ)"が影響しているように思います…!
(この曲を購入)
ビリー・ジョエル


ビリー本人が選曲したというLove Songのグレイテスト・ヒッツです。おいっ邦題。この曲も入ってるけど「バラード」じゃないだろ。「ビリー・ジョエル LOVE SONG」というタイトルで販売してほしいな。
コメント
コメント一覧 (4)
「ステート・オブ・グレース」のイントロが「愛は勝つ」の元ネタだろうなーというのは後者の発表当時から私も感じてました(^ ^)
そんでもって、「愛は勝つ」のCDシングルカップリング曲が「それでもフラれてしまう男(やつ)」という身も蓋もないセルフアンサーソングになってるんですが、こちらの元ネタは確実に「ランニング・オン・アイス」(アルバム「ザ・ブリッジ」1曲目)だと思います。KANさんはよほどビリーがお好きなんですね(笑)
https://youtu.be/ofcQBJJPnyA
さて、Atrantic時代に出されたForeigner HistoryのDVDの冒頭、ビリージョエルとミックジョーンズがスタジオで何やら仲良くしているところから始まり、プロデュースをバンヘイレンに依頼したところ、”エディがミックを推薦した”と言ってます。驚いたのは、ビリーはフォリナーの曲はよく知っており「冷たいお前」がお気に入りですがバンドのメンバーを知らなかった、というのがエピソードです。