エルトンの2015年の横浜アリーナでの来日公演。
この曲"ヘイ エイハブ(Hey Ahab)"を演奏してくれました。その時に“ラッセルと一緒に演った曲だよ"とエルトンが紹介していました。
 実は…その時の公演で初めて聴きました…。レオン・ラッセルとエルトンが共演して、アルバムを出したしツアーもしていた、というのは耳にしていたのですが…。

 エルトン、なかなか気合い入れて歌っていました。レオン・ラッセルとの共演曲はどんな曲かな?というのもあるのですが、タイトルに出てくる人名?"Ahab"は誰なのか?、が気になって、どんな曲かがより興味があったので調べてみたくなりました。


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◆"Ahab"とは…?調べてみると…2つ出てきました。
(1)(紀元前9世紀)旧約聖書によれば、異教徒のイスラエル王で、イゼベルの夫 (Weblio英和辞典)

(2) ハーマン・メルヴィル(Herman Melville)の主著、『白鯨』(Moby-Dick, or the Whale, 1851)に出てくる、偏執狂の船長。片足をモウビィ・ディックと呼ばれる白い鯨に食われたことから、狂気じみた憤怒をこの鯨に抱き、全てをなげうってでもこの鯨を倒さんと欲するようになる。
 (はてなキーワード)←「白鯨」の詳しいストーリーはこちらを参照。

(2)の「白鯨」に片足を喰われたエイハブ船長、名前まで知りませんでしたが、当然この物語は知ってます。ちなみにエイハブという船長の名前は(1)の聖書の話から取ってあるということ。「白鯨」の話を小説や映画で知ってた人は「Hey Ahab」というタイトルを聞いてピンと来るものがあったのかもしれませんが、僕はそうでありませんでした。

 歌詞を確認すると、宿敵の白鯨の名前"Moby Dick"(Led Zeppelinのボンゾのソロに曲名がありますね)という名前は出なかったけど、"great white whale"やら"Jonah"やら"白鯨"の物語に沿った単語・人名が出てきます。そうかあ、でも物語「白鯨」をモチーフにして「おい、エイハブ」って何を話しかけてる歌なのか、がぜん興味が沸いてきました…。

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◆「なあ エイハブ」と、船長に話しかける主人公(空の上から?)。彼は自分の生き方にどうも迷いがあるみたいです。

"白鯨"に挑み、片足を食いちぎられてしまったエイハブ船長。エイハブは「恨み」という情念にかられて…ということではありますが、白鯨"モビー・ディック"を倒すという一つの目標に向かって突き進み、残りの人生をそのことのみに捧げた人物。主人公はエイハブのこの生き方に共感するものがあったんでしょうね。

◆作詞はエルトンのソングライティングの相棒バーニー・トゥピンです。西洋の人にとって"エイハブ"~"白鯨"の物語はどんな風に受け止められ、どのくらい知られているのかな。
 "エイハブ"と聞くと、どんな人を想像するのでしょうかね。バーニー自身もエイハブのようになりたかったり、また、エイハブのような人物が現れてほしいと思っていたのかな。
ここでいったん和訳をどうぞ。



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Writer(s): Elton John, Bernie Taupin

Released in 2010From The Album"The Union"

*原詞の引用は太字


It's a constant struggle 

getting up that hill
There's a change of guard every day
When you're clinging onto a driftwood boat
You pray a great white whale
 might come your way

"丘に登る"のは大変なのはわかってる
"衛兵"が毎日変わるんだ
おまえは"いかだ"にしがみついて祈る
白鯨が目の前に現れてくれることを

No freeway traffic in the frozen North
Just a chain link fence full of birds
And when the harpoon's loaded 
in the cannon bay
You'll be rolling through the pages 
lost for words

凍り付いた北の地じゃ交通渋滞もない
沢山の鳥たちがとまる金網フェンスだけ
船の先頭の大砲に"もり"が積まれると
ページがめくられるように
おまえは何も話さなくなる

Hey Ahab 
Can you tell me where
I can catch a ride out of here
Hey Ahab 
hoist that sail
You gotta stand up straight
When you ride that whale

なあ エイハブ
どこに行けば俺はここから
出て行けるか教えてくれよ
なあ エイハブ
帆を高く掲げよう
おまえがクジラの背に乗るときに
真っ直ぐに立ち上がっていくように

In a crumbling city 
we were trapped for days
With a broken sun above the clouds
Caught like Jonah forty fathams down
And a sign on the wall saying, 
"Hope Allowed"

滅びゆく町で
雲の上には壊れかけの太陽
俺たちは罠にかかってヨナのように
海深く連れていかれてるのさ
壁にはこんなサインが書かれてる
"許されることを祈る"

All the cryptic symbols carved on bone
A far cry from a tattooed rose
And when the boys in the rigging 
catch the wind
We'll all weigh anchor 
and it's westward ho!

骨に刻まれた秘密の傷の数々は
薔薇のタトゥーとはまったく違うのさ
索具を操る船員たちが
風をとらえたら
錨を引き上げ出発さ
行き先はウエストワード・ホー!

Hey Ahab 
can you tell me where
I can catch a ride out of here
Hey Ahab 
hoist that sail

You gotta stand up straight
When you ride that whale

おい エイハブ
どこに行けば俺はここから
出て行けるか教えてくれよ
おい エイハブ
帆を高く掲げよう

おまえがクジラの背に乗るときに
真っ直ぐに立ち上がっていくように…

(Words and Idioms)
constant struggle to=~はいやというほど思い知らされている
Changing of the Guard =(バッキンガム宮殿などでの)衛兵交代(式). 
driftwood=流木
great white whale=白鯨=Moby Dick
chain link fence=ダイヤ型に編んだ鋼鉄ワイヤのフェンス
harpoon=(捕鯨用の)もり.
bay=(船の)中甲板最前部.
lost for words=言葉に困る、言葉を失う
catch a ride with=(人)の車に乗せてもらう
hoist=〈旗などを〉揚げる; 
crumble=ぼろぼろにくずれる,砕ける
fathom=ファゾム=主に海で用いる長さの単位で,6フィート(約1.83m)
Jonah=ヨナ=クジラのおなかの中で三日三晩過ごした、聖書に出てくる「ヨナの物語」
cryptic=隠れた,秘密の、神秘的な
a far cry from=はなはだしい隔たり
rigging=索具(さくぐ)
=マストに繋がってる紐の全部
weigh the anchor=航行に備えて錨を引き上げる
Westward Ho!=イギリスのデボン州の村の名前。1855年に出版されたチャールズ・キンズリーの手による同名のベストセラー小説が元。

日本語訳 by 音時
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◆歌詞は、北の寒い海で"白鯨"と会うために、毎日毎日暮らす地味な日々、でもいざ"白鯨"と対面しそうになると、すごく緊張感が走ります。

It's a constant struggle getting up that hill

…これは"白鯨"の背中に乗る、あるいは"もりを撃ち込むこと"なのかなと思いました。

There's a change of guard every day

…これはちょっとわからない。人間、ゲームであっても親分や敵ボスの前に護衛の兵(change of guard)がいるのですが、"白鯨"にもいるのかな。映画か小説を読まないとわからないかな。

In a crumbling city


…この部分は現代社会で暮らす自分達のことを言っているのでしょう。"Caught like Jonah forty fathams down"="ヨナのように40ファゾム下に"ですが、「ファゾム」は海での長さの単位だそうで、1ファゾムは6フィート(約1.83m)です。ですので40×1.83=73.2mということで最初は"約70m下に"と訳したのですが、Jonahが聖書の「ヨナ物語」の"ヨナ"で、クジラのおなかの中で三日三晩過ごしたという話の人物であることから、ヨナのようにクジラのおなかに入れられて、海深く連れていかれて自由を失っている状況を行ってるのだろうと考えました。ですので正確な単位はいらないだろうと思い「海深く連れていかれ、閉じ込められて自由を失ってる」とかなり意訳しました。

実際には「ヨナの話」と「白鯨」の「エイハブ」の絡みがあったわけではありませんが、クジラと戦う「エイハブ」は、現代社会で「囚われている自分達」をおなかから出してくれるかもしれない存在、という設定なのかなと思います。

westward ho!


…実際にある村の名前でした。「!」マークのつく地名も珍しい。何でもこのタイトルの小説があるようです(作者はチャールズ・キングスレー)。なぜこの地名が歌詞に使われたかはちょっとわかりませんが、この「westward ho!」は「お母さん?を探しに兄弟がアフリカの果てまで旅する」物語のようです。"白鯨"を求めてどの海にも行くぜっていう意味なのかと思いました。


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◆「Hey Ahab」はエルトンのソロとしてライヴで聴きましたが、レオンとのライヴやアルバム「The Union」のなかでは、エルトンがメインで歌いつつも、コーラスでレオンが絡んできます。エルトンはファルセットで歌うのはきつくなってきているかもしれませんが、この力強い歌声がこの曲に合っていますよね。女性のバッキングボーカルもカッコいい。レオンは…ほんと仙人みたいだな(笑)

レオン・ラッセルは、2016年11月13日、米テネシー州ナッシュビルのご自宅で天国に逝ってしまいました…。74歳でした。(R.I.P…)

レオンの死去を報じたニュース(Barks.jp


◆アルバムの「Hey Ahab」。コーラスから絡んでくる、低いレオンの声がよく聞こえます。ほんと仙人っぽいな。



◆エルトンとレオンが向かい合い、ピアノを連弾。"Hey Ahab" From The Bonnaroo Music Festival June 15th, 2014



◆アルバムではこのバラード"When Love Is Dying"がよかったな。レオンのボーカルから始まります。ソングライティングはバーニー&エルトン。バックコーラスはビーチボーイズのブライアン・ウィルソンが参加しています。




(この記事で参考にしたページ)
・Wikipedia The Union
・Wikipedia 白鯨