日本でも1975年の「17歳の頃」に続き、翌年の「ラブ・イズ・ブラインド」でジャニスの人気は広がりました。

「ラブ・イズ・ブラインド」はTBSドラマ「グッバイ・ママ」(故坂口良子さん主演)の主題歌になったこともあり、オリコン洋楽シングルチャートで8週連続1位を獲得し、アルバム「愛の余韻(Aftertomes)」は日本の洋楽アルバムチャートで半年間に渡って首位を記録しました。(半年も!)

◆ジャニスは、全米チャート(Top40)では1967年に"Society's Child"が14位、1975年に"17歳の頃(At Seventeen)"が3位になりましたが、ヒットはこの2曲だけなんですね。「ラヴ・イズ・ブラインド」も日本だけの大ヒットだったんです。以降、ジャニスは日本のドラマの主題歌も歌ってくれて、日本での洋楽チャートを賑わしてくれました。

 1977年にはドラマ「岸辺のアルバム」の主題歌"ウィル・ユー・ダンス"、1980年には角川映画「復活の日」の主題歌"ユー・アー・ラヴ"も忘れられませんね。でも…僕からするといつの間にか、名前を聞かなくなってしまいました。このあたりの事情はウィキペディアによると…"2度目の結婚の失敗や金銭トラブル、病気と、災難が続いて思うように活動できず、本格的な活動再開は、1993年にリリースしたアルバム『ブレイキング・サイレンス~再会』(Breaking Silence)からとなる。他の代表曲に「フライ・トゥー・ハイ」などがある"と書かれていました。そうか、そうだったのか。

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◆"ラヴ・イズ・ブラインド"…はアルバムで「恋は盲目」と邦題が付けられています。アルバム「Aftertones」も邦題が「愛の余韻」と付けられ、アルバムの収録曲にはすべて邦題が。このあたり、レコード会社もここぞとばかりに日本でジャニスを売り出したことがよくわかりますね。

★SIDE 1★ 
1. 愛の余韻 Aftertones 
2. 踊りたいのに I Would Like to Dance 
3. 恋は盲目  Love Is Blind 
4. バラの少女 Roses
5. ブルースの華  Belle of the Blues 

★SIDE 2★ 
1. 朝にお別れを Goodbye to Morning  
2. 酔いに身をまかせて Boy I Really Tied One On
3. 悪い夢 This Must Be Wrong 
4. 疲れ果てた心 Don't Cry, Old Man
5. 聖なる歌  Hymn 

◆この曲を和訳するのに邦題の「恋は盲目」という言葉が頭から離れず、とても邪魔に感じました。(シングルになったときは"ラヴ・イズ・ブラインド"とカタカナ表記になりました)
("盲目"は差別語ではないと思いますが、誤解される場合も想定して使わないようにしたのかもしれませんね)

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(Janis Ian)

Released in 1976
Japan Oricon Foreign Music Chart#1
From The Album“Aftertones”

:原詞は太字

Love is blind
Love is only sorrow
Love is no tomorrow
Since you went away

Love is blind
How well I remember
In the heat of summer pleasure
Winter fades

愛は真っ暗闇
愛は 悲しみだけの世界
愛は 明日がやってこない
あなたが去ってしまってから

愛は真っ暗闇
何てはっきりと覚えてるんだろう?
夏の快楽の真っ只中で
寒い冬の厳しさも色あせていくのに

How long will it take
Before I can't remember
Memories I should forget

I've been burning
Since the day we met

どれだけ時間がかかるんだろう
忘れるべき想い出の数々を
私が思い出せなくなる日まで

ずっと心は燃えたまま
あなたに出逢ったその日から

Love is blind
Love is without a mercy
Love is "now you've hurt me
"now you've gone away"

Love is blind
Love is no horizon
And I'm slowly dying
Here in yesterday

愛は出口がない
愛は情け容赦ない
愛は"あなたが私を傷つけ
 そして去ってしまった"ということ

愛は出口がない
愛には光も見えない
私はここで昨日のなかに
私はゆっくりと死んでいくの
ここで 昨日のなかに埋もれて

In the morning
Waking to the sound of weeping
Someone else should weep for me
Now it's over
Lover, let me be

朝になると
すすり泣く声に目を覚ます
誰かが私のために
泣いてくれてたのかもしれない
でも もう終わってしまったの
愛しい人の想い出よ
私を放っておいて... 

Love is blind
Love is your caress
Love is tenderness
And momentary pain

Love is blind
How well I remember
In the heat of summer pleasure
Winter fades

愛は実ることがない
愛はあなたの抱擁
愛とは優しさ
そして つかの間の痛みのこと

愛は実ることがない
心のなかではっきりと覚えてるのに
夏の快楽の真っ只中じゃ
冬の記憶は かすれゆくというのに…

(Words and Idioms)
caress=愛撫、抱擁

日本語訳 by 音時

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 アルバムが「愛(の余韻)」と"Love"を「愛」と和訳しているのに対して、なぜ"Love Is Blind"の"Love"は「恋」なのだろう。

そして"Blind"=「盲目」と、決まりきった和訳を当てはめているようです。でもこの曲の歌詞、少なくとも「恋」というには「好き・キライ」というだけでない、かなり情念がこもって心の奥深いところの感情が歌われているようなのでやっぱり、"Love"の和訳語は「愛」だと思います。

 また「恋は盲目」という言葉は「好きでたまらなくてそれ以外は見えない」という状況が頭に浮かびます。ですが、この曲の"Blind"ってそういう状況はイメージできません。自分を傷つけて去っていった愛しい人の想い出を、主人公は忘れようとしても忘れられない…その状況のなかで"Love Is Blind"とはどんな情景か?思い浮かべてみました。文字通り、目が見えない=情景は「真っ暗闇」です。この主人公にとって「愛は真っ暗闇」のイメージなのかと思い、そのように和訳しました。

 でもこの2分ちょっとの短い曲のなかで、3か所に渡って2回ずつ出てくる"Love Is Blind"について、すべて「真っ暗闇」と受け止めるには、僕にとっても少し抵抗があったので、辞書で"Blind"(形容詞)を調べてみたら、こんなに複数の意味が書かれていました。(英辞郎on the Web)

【形】
1.目の不自由な、目の見えない、盲目の◆「blindは差別語であり、visually impairedを用いるべきだ」と主張する人があるので使用に注意。
2.疑いを抱かない、事実に基づかない、やみくもな
3.理解できない、分かりにくい
4.出口のない、行き場のない
・You blind idiot! Can't you see she doesn't love you? : あなたは救いようのないばか者よ!彼女があなたのことなんか愛していないのが分からないの?
5.〈俗〉酔っぱらった、泥酔した◆酒・麻薬で
・I was so blind last night. : 昨夜はすごく酔っ払ってしまった。
6.見ないで[目隠しをして・準備をしないで・先入観なしで]行う、視覚に代わる機器を使った
7.見通しの悪い、死角になった
8.我を忘れるほどの、抑制できない、押さえきれない
9.意識を失っている、もうろうとした
10.〔縫製で〕縫い目が見えない
11.《植物》発芽[結実]しない

ああ、"Love Is Blind"って言葉。これだけ意味があるのであれば、おそらくネイティブの人であれば色んなイメージで受け止めるのかなと思いました。

僕も僕なりに、この曲の歌詞の前後関係のなかから、"Blind"の訳語にあてはまりそうな意味を独断で選んでしまいました。2nd verseでは「出口のない」「行き場のない」という意味、そしてlast verseでは「植物語」であると但し書きがついているものの「発芽(結実)しない」をチョイス。主人公にとって、愛って自分には所詮似合わない、うまくいくはずのないもの、というあきらめ感。「実るはずのないもの」という想いなんじゃないだろうか…そんな風に思っている気がしたのです。

◆"Love Is Blind"、色んな人がいろんな愛を経験しているなかで、イメージを膨らませ、いろんな解釈ができる名曲ではないかと思います。ぜひ「恋は盲目」という邦題にとらわれずに、味わってみてください。
(この下の方に出てくる、椎名林檎さんのカバーはその代表的なものに感じます。出口が見えなくて、狂おしく叫びたい気持ち…それも愛、なんだよな…。)


◆ドラマ「グッバイ・ママ」から。



◆ものまね紅白のご本人さん出演でジャニス登場。 (モノマネは星奈々さん、似てたよな~)



◆椎名林檎さんのカバー。2002年のカバーアルバム「唄ひ手冥利~其ノ壱~」より。